土佐直伝英信流

英信流居合・源流考  (常磐支部・支部長記す)

300年以上前に林六太夫守政先生が掘り出した英信流という出水(いずみ)が土佐にある。その出水は、今も変わらず土佐の風土の味を溶かし込み、風景を映して湧き出でているが、100年ほど前に、出水は土佐から溢れ出し他の地へも流れ始めた。出水は川となり支流を作り、また他の川と合流し、流れている。

止め処も無く支流を作り合流を重ねながら流れ始めた川を、今はもう止めることが出来ない。しかし、その川で育った者たちにも、源流からの微かな味が身体に沁み込んでいる。いつしか源流の味を頼りにその川を遡ってくる時が来る。そして、源流に辿り着いた者は、その味の深さに驚き、その風景に酔いしれる。

源流である出水は、それを守る先生方によって、代々清らかに保たれている。それにより、自分たちは、お蔭様で、本当にお蔭様で、今でも英信流の源流を味わうことができる。


土佐直伝英信流・流称の由来  (当流「道しるべ」より抜粋)

近代になり、十七代、大江正路先生は、当流の伝書を整理統合され、今現在の我々が行う英信流の形態を確立された。その後、土佐藩のお留流と言われた英信流は、無双直伝英信流とし全国に広められていったが、普及するにつれ土佐本来の居合とは違うものに育っていったようである。

この様な状況にあって、二十代宗家竹嶋壽雄先生は、伝書・口伝等深く研究せられ、古い時代の居合再現に取り組んでこられたが、道統を村永秀邦先生に継承されるを機に、流名を土佐直伝英信流と改称せられる。

英信流と言えば、古くは土佐に決まっているものを、あえて土佐直伝と称さねばならぬ状況は、残念な事ではあるが、現在の「無双直伝英信流」の一人歩きを思えば、土佐の伝統を受け継ぐ我々には、誇り高き流称である。


入門の心得  (当流「道しるべ」より)

居合を始めるに至った動機や目的はそれぞれであろうが、今後、土佐直伝英信流を学ぶに当り、心して欲しい基本的な心構えを少しく述べておく。

古い時代に於ては、入門時に起請文を師に提出し、身命を賭して行に励む事になるのであるが、現代ではそこまで要求される事はない。

しかし、長い伝統の流れに縁を得た以上、個人的な思惑とは別に土佐の伝統を受け継ぐ一員としての自覚を持って稽古に臨んで貰わねばならない。そして、その流れを正しく次の時代へと送り届ける役目の一端を担って欲しいと願うものである。

伝統の継承とは単に技術的なものに限らず、心や思想、人間関係までも含めた文化の継承である事をよく理解して欲しい。

ただ、土佐の英信流の蘊奥は言葉や文章の上だけで学び取る事は決して出来るものではない。唯一、体を張っての行をもってのみ伝えられ得るものである事を明言しておく。